「で、どうだったんだ?」

七瀬が探偵事務所の奥の部屋の
所長室のデスクに座っていた

回転式の椅子に背をもたれながら
先ほど、山瀬に入れて貰ったコーヒーを飲んでいる



「依頼は行方不明の姉を探して欲しいと
いうもので…………」


相良は一戸 麻里子から聞いた話をひと通り話した


その間、七瀬所長はタバコに火をつけ
咥えては夕刊を読み始めた




「…………というもので、
まずは、その元カレをあたってみようかと…………」




「ふうん」





七瀬は先ほどかりスポーツ紙の夕刊の
折り込みグラビアに夢中である




そんな彼を見て、心の底から湧き上がる怒りを感じた相良は………




「人の話を聞けんのかいな!!」



「おいっ!!」


デスクに長い脚で飛び乗り
夕刊のグラビアのページを脚で踏みつけて
七瀬のタバコを取り上げた



「あのね、ここは禁煙でしょ!!」



相良は引きつった笑顔のまま
タバコを灰皿にこすりつける




その姿を唖然とした表情で見ていた
七瀬は、やっと事態を把握したようで……




「うわぁ、もったいねえ
まだ、吸えたのなあ………
だいたいなあ、ここは俺の事務所なのに
なんで、勝手に禁煙にすんだよ」






「あんたがタバコ吸うからでしょ」






「おいおい、落ちつけよ、葉ちゃん
とりあえず、デスクから降りなさい、ね」



相良はデスクから離れて
来客用のソファに腰を下ろした

その際につかんだ、夕刊を手で
ぐしゃりと丸めてゴミ箱に投げ入れた





「所長もいい歳なんだから、こんな、おっさん臭いこと止めませんか?」




「俺、また32だぞ、これから、おっさんになんの」




「32なら立派な大人でしょ
いい加減、自立してください」




「なにが、そんなに気に入らないんだ
?葉ちゃん?」




「まずは、その格好、よれよれジャージにサンダルって…………田舎の高校生じゃあるまいし……」



「お前、それ、偏見だぞ
後から、苦情くるぞ」




「あと、『葉ちゃん』って呼ぶのやめてください」




「なんで、可愛いだろ?」


七瀬は椅子から立ち上がり
ソファに座る相良の方に歩む




「可愛いって、全然、嬉しくないんですけど……」




「お前はスーツがよく似合うなあ………」




「はい?」





「もう少し、肩幅と身長があればなあ」




「仕方がないじゃないですか」




相良は常に黒のスーツにネクタイをしていた

その格好は探偵事務所に就職してから
ほぼ変わっていない




「それに、身長172㎝って普通ですよ
俺、最近、また伸びましたし……」




「もうそれ以上は無理だろ?」



七瀬は相良の背後に立ち
相良を見下していた