「事件……………」
麻里子が独り言のように囁いた
「あくまで、可能性です
何も分かっていない現状で
卑屈になってはいけません
今は、お姉さんを信じましょう」
麻里子はこくりと頷いた
「小百合さんには、恋人はいませんでしたか?」
「えっ?」
相良の予期せぬ質問に麻里子は驚いた
「恋人に会いに行ったのかもしれませんから…………」
「駆け落ちってことですか?
絶対にありえません!!」
相良は即答で断定する麻里子に対し
いくらかの疑問を抱いた
消えた小百合は30歳のなかなかの美人である
そんな彼女に対し、ここまで恋人の無さを強調できることに違和感を抱いたからだ
「どうして、言い切れるのですか?」
「どうしてって、そりゃあ、一緒にすんでるわけだし。
それに、小百合は……」
「お姉さんは?」
「小百合は……………昔の恋愛を
引きずっていて……」
「昔の恋愛?」
「ええ、確か、遠距離になるからって
別れたらしいをですけど…………」
「彼が何処かに行ってしまったんですか?」
「違うんです!
どちらかというと小百合が彼から
離れたんです…………」
「えっ?小百合さんって
ずっと川越市にいたわけではないんですか?」
「姉は1年前まではn市に居ました」
「ほう、n市ですか………」
「そうなんです、だから、相良さんの大学がn市だと聞いて驚きました」
「なんでまた、n市に?随分と遠いですよね?」
「なんか、5年前のクリスマスイブに………」
「えっ?5年前?」
「そう、5年前………」
「何かあったんですか?」
「当時姉は25歳で大学院に居たんですけど……」
「大学院?お姉さん、大学は東京だと伺っていましたが?」
「ええ、大学院も東京です
ただ、5年前のクリスマスイブに
面白い講座があるからってn市まで駆けつけたみたいで…………」
「講座?」
「ええ、講座です
大学で有名な助教授がクリスマスイブの夜に特別講座を開いたそうで…」
「わざわざ、n市に………?」
「ええ、n市に………その時に、
出会った人がいるらしいんです」
「それが、1年前に別れた恋人ですか……」
「講座を一緒に受けたらしいんです」
「ん?見ず知らずの男性と一緒にですか?」
「あっ………なんというか、その講座が、ちょっと変わっていまして………」
「というと?」
「パートナー同伴だったみたいで………」

