「下手くそだなあ」

練無はドアを閉め、紫子を迎え入れた




「れんちゃんが相手だと思うと
緊張するんや」




「…………それ、どういう意味?」





「なして怒っとるん?」





「怒ってないよ」





「ほんまかあ?」






「僕じゃないと思えばいい」





「じゃあ、キミは誰なん?」






「今夜、始めて会った赤の他人」






「うち、そんな知らん人とホテルになんか入らんわ」






「それもそうだ」




2人は奥の部屋に向かった


紫子はダブルベットを目にしたとき、
改めて今いる自分の状況をたしかめさせられた





「ルームサービス頼もうか?何がいい?」



「イタリアンは嫌やな」




「あれ、しこさんってイタリアン嫌いだっけ?」





「れんちゃんとは食べたくないんや」






「それ、難しいなあ……ピザとか、スパゲッティとかだめなんでしょ?」




「ピザって………あんな、食べるのに難しくて色気ない食いもんを
こんな時に食べるんやないで」





「逆にセクシーな食べ物ってなに?」






「茶碗蒸しとか?」





「茶碗蒸しあるかな……?」





練無がホテルの備え付けの固定電話で
幾つかの料理とお酒を注文した



注文を終えた練無はテーブルイスに座って
ベットでくつろぐ紫子を見た



紫子は既にピンヒールを脱ぎ
脚をバタつかせていた





「しこさん、僕に聞きたいこと
あるんだよね?」





「…………今夜はいい、明日の朝にするで………」






「どうする、しこさんが起きたら
僕がいなかったら?」






「そしたら、キミがそこまでの男やった
ということや」




「そこまでって?」





「ベットで女を残して出て行く男に
うちは、未練ないな」






「わあ、しこさん、言うようになったねえ」





「女は先にベットに入って
先に出ていくもんやもん」






「僕が知らないうちに
しこさんは大人になったんだね」





「キミもやろ」




練無は立ち上がり紫子の隣に
座った




「食事はまだやろ、
どうします?れんちゃん?」





「うーん、2人で遊んでようか?」





「なにして遊ぶの?」






「トランプじゃないのは確かだね」






「まさか、持ってきてるんやないやろな?」







「もちろん、あるに決まってるじゃん」






「なんちゅうお子様なん、君は」


紫子は練無をみて、小さく笑った


視線が絡まったのをアイズとするかのように

どちらかとも無く
2人は目を閉じ、くちびるを合わせる

紫子の薄いグロスが
練無のくちびるにもついた





「うち、シャワー浴びてくるわ」






紫子はベットから立ち上がった