ひかるは美術準備室のドアをゆっくりと開けた。いつものように、蜘蛛の巣をかいくぐり、床に置かれている品々を踏まないように慎重に奥へ進む。
 窓のある南側の一部のスペースしか“片付け”をしていないので、入り口付近は相変わらずの状態である。しかしながら、これはまるで中の状態もひどいかのように思わせるカモフラージュのつもりであるため、ひかるとしては我慢するしかない。
 そのカモフラージュは、三メートルほど進むだけで、なくなる。ひかるの努力により、三メートル先は開けた場所のようになっており、窓からの光がしっかりと入るようになった。
 少し移動したところで、急に視界が開けると、オレンジ色の光がひかるを包みこんだ。いつもなら、その美しい夕焼けにひかるは感嘆の声をあげるところだったが――
 今日は、窓辺に一人の男子生徒がいたことに驚いてしまった。

「えっ・・・。」

 窓辺に腰かけた黒髪の美しい少年が、驚きの声をあげるひかるを見て不敵に微笑むのだった。