私が、美術準備室に入り浸るようになった理由とは、回りの目を気にせずお菓子を食べれるとか、ゲームし放題だとか、そんな馬鹿みたいなものではない。決して・・・いや、たぶん。

 私がこの場所に魅力を感じた一番の理由は、
―――――そこにおいてある個性的な品々にある。

 見たことのない美しい油絵や彫刻、様々な形のパレットや筆。私は、それらを見て、触れる度に、過ごしてきた長い時の流れを感じた。この絵を描いた人は、どんな人だろう、とか、ここに描かれた海はどこなんだろうとか。そのものが持つ思い出や歴史に思いを馳せるのだ。(私の勝手な妄想とも言えるけど。)
 そうすると、なんともいえない優しさと好奇心とが、自然に心の中に沸き上がり、私の心をあたたかくするのだった。


 それに、もうひとつ理由がある。この部屋の窓から見える夕焼けが、とても美しいことだ。
 天気の良い日の夕暮れ。古ぼけた木の窓から、オレンジ色の光が差し込む。揺らめく美しい太陽が、山の向こうへ消えていくその、寂しさと懐かしさ。この景色を見る度に、胸が締め付けられるような思いになる。
 その思いは、幼少の頃誰もが感じるような懐かしい思いに似ている。日がくれるまで友達と遊び回った夕焼けの中の帰り道。夕日を浴びながら、母親と手を繋いで帰った思いで。美術準備室から見る美しい夕焼けは、もう戻らない大切な思い出を、甦らせるようだった。