100m走は好きじゃない。

トラックを全力で走る。

勝ち負けが作戦とかもなにもなしに、ただ体力で決まってしまう。

帰宅部の俺が運動部に勝てるはずがないと思っても、足は必死に前に出る。

別に勝ったからどうというわけでもなくて、ほんのすこし加算される点が変わるだけだが。

前の一人が抜かせない。

体を動かすのに精一杯なはずなのに思考が空回りして酸素を無駄遣いする。

ごうごうと風のような耳鳴りがして、応援席の目の前を通ってーーー応援の声がいっそう激しくなる。

身を乗り出すように声をあげている。

名前。「葉月くーんがんきっと真綾の声。

すぐに通りすぎて「八桐ー!太い声、高い声がそれぞれ聞こえて。

追い越せないまま、ゴールテープを切られた。