初夏がカーテンを揺らす。
きつい日差しと雨上がりの匂い。
まだ聞こえない蝉の声に安心している。
残りの時間に油断している。
瞬く間にすぎるはずがないと、もう経ってしまった2ヶ月を知らないふりしている。
「……葉月、私たちもう高校生だったね」
独り言をこぼして、葉月の腕をつねった。
葉月の寝息を感じてたまらなくなる。
『欲しがらないと手に入らないよ』
その通りだ。
息を溢して、止めて、吸い込む。
そして彼の唇に重ねた。
私たちの未来は、これ以上累ねてはいけない。
葉月は大学に行くと言っていたが、私は専門か就職だ。
自分の将来のために動かなくちゃならなくなる。
同じ質量の時間が流れるのは今だけ。
高校生のする恋愛が、結婚に繋がるなんて極々稀なことで、私たちの間にずっとなんてものは存在しない。
私たちは連理の枝にも、比翼の鳥にもなることはなく、ただひたすら別れていく。
残り時間などほんの少し。
その間に酸いも甘いも愛しさも別れも詰め込む、なんて欲深いのだ。
「葉月、早く目をさませよ。私をはやく捕まえないと喜びなんて瞬く間だよ…?」
お姫様は王子様のキスで目をさます。
けれどお姫様じゃない私が、王子様じゃない君の目を覚ますには魔法が足りない。
だから、明日から本気をだそう。
本気で君を、葉月を拐かす。
この容姿で、この甘言で。
「葉月を取り戻す」
竹野真綾から。

