「榊、ここに居たのか」
探したぞ、と少し怒ったように言う黒髪の青年、霧崎に榊はにこりと笑いかける。
「ごめんごめん、ちょっと面白いものを見つけてさ」
そう言った榊の腕の中では少女が小さく寝息を立てている。それを見た霧崎は眉根を寄せた。彼の切れ長の目が更に細められる。
「お前、また女を誑かして…」
「やだなぁ、そんなんじゃないっていつも言ってるでしょ?それにこの子は別だよ。自分からここへ来たんだ」
榊の言葉に霧崎はほう、と顎に手を当てた。
「珍しいな、てっきりあの女が道を塞いじまってるのかと思ったんだが」
霧崎の言葉に榊は笑みを深くする。
「あの女の子供さ。如月さん。残念ながら下の名前は頑なに教えてくれないけど」
榊は面白そうに笑いながら腕の中の少女の額に口付ける。
「ああ、なんて憎らしいんだろう。今すぐにでもこの手で殺してやりたいくらい。憎らしくて愛おしい」
霧崎はそんな榊の様子を見ながら溜息をつく。
「お前は相変わらずだな。その様子じゃその娘に一服盛ったんだろ?」
博士がお怒りだぞ、と面倒くさそうに言った霧崎に榊は軽く謝る。
「ごめんごめん、ちょっとだけ記憶を弄っちゃった」
「全く」
霧崎は深く溜息をつくと、程々にしろよ、と告げ榊に背を向けた。
「用事はよかったの?俺のこと探してたんでしょ?」
「もういい、気が逸れた」
榊は、そう言い去っていく霧崎を見送ると少女を抱きかかえたまま立ち上がる。
「さて、じゃあ今度こそ本当に僕のお家に案内しようかな」
榊は鼻歌を歌いながら霧崎が去っていった方へ歩を進める。
少女が起きたら何と言ってやろうか。君は孤独なのに僕が君を見放したら君はどうやって生きていくの?なんて脅してやろうか。それとも優しい振りをしてじわじわといたぶってやろうか。
そんな思考をめぐらせながら。