森の奥の村




やっとの思いで藁葺き屋根の家にたどり着くと家の前の畑に老人がいた。家主だろう。私は安堵し、声をかける。
「あの!!」
私の声に気がついたその人は驚いたように目を見開き、素早くこちらへ近づいてきた。
「君、どこからきたんだ!?」
家主は早口で問いかける。
「あの森の向こうから」
私の答えを聞いた家主はなんということだ、と額に手を当てる仕草をしたが、すぐにこちらに向かい直し、私の耳元に顔を寄せた。

「いいか、お嬢さん。今すぐ来た道を戻るんだ。奴らに見つかったら」
「あれ?久々に来てみれば…誰です?その女は」
家主が言い終わる前に私の背後から声が聞こえる。驚いて振り返るとそこには20代前半と思しき茶髪の青年が立っていた。
家主は目を見開いた後、俯き震える声で言った。
「迷いこんできた、ようで」
家主の言葉に青年はへぇ、と笑い私に目をむける。
「君、名前は?」
顔は笑っているが目が笑っていない。それに家主のこの怯え方、きっと恐い人なんだ。私は咄嗟に目をそらす。
「如月、です」
最後のほうは声が殆ど出ていなかったと思う。
私の答えに満足した青年はうんうんと頷くと私の手を取って歩き出した。
「あ、あの」
戸惑う私を他所に家主が少し大きい声を出す。
「今はパトロール中でしょう、その娘は私が連れて行きますよ」
その言葉に青年は眉間に皺を寄せる。先程の笑顔は見る影もない。家主はひっ、と短い悲鳴をあげた。
「いいよ、僕が連れてくから」
「で、ですが…」
青年は食い下がる家主に冷たい視線を向けると隊長に言いつけるよ、と言いながら何やら腰に手をやる。
「申し訳ありませんっ、どうかそれだけは」
家主は深々と頭を下げた。隊長という人は余程偉い人なのだろうか。
人に出会えた事に安堵し、あまり頭が働いていない私は呑気にそんな事を考えていた。