「おい根暗!!!早く行けよ!!」
私の家には絶対に破ってはいけないルールがある。
一つ目は門限。
二つ目は酒やタバコを未成年のうちに面白がってやらない事。
三つ目は家の裏手にある森には入らない事。
私は幼い頃から厳しく教えられてきた。ルールを破ったことは一度もない。
そんな私だったが、まさに今、そのルールの一つを破ろうとしている。
三つ目のルール。
森に入らない事。
「根暗なんだからそのくらいやれよ」
いじめの主犯格である人物が私を怒鳴りつける。今年で18歳になる私はこの青年にいじめられはじめてからもう三年になる。この歳になっていじめなど情けないとは思わないのだろうか。
今だって背中を強く押されている。いっそ森に入ってしまったほうが楽なのだろうが、私にとってはいじめっこよりも自分の父親の方が恐い。意地でもルールは守りたいのだ。
そんな願いも儚く、一際強く背中を押され私は森へと踏み込んだ。
__ああ、とうとうルールを破ってしまった。
私はいじめっこを睨もうと振り返る。
しかし、そこにいじめっこの姿はなかった。只々森が広がっているだけだ。
「どうして」
辺りを見回しても目に入るのは木だけである。
ここは一体何処なのだろう。
私は泣きそうになるのを必死に堪えて歩き出した。しかし何処を見ても木ばかりで進んでいるのかもわからなくなる。
あの時もっと強く踏ん張っていたら。
あの時いじめっこから逃げていたら。
後悔の念がふつふつと湧き上がってくる。
暫く歩いていると遠く木々の隙間にちらりと藁葺き屋根が見えた。私は汚れる足を気に留める事なく屋根に向かって歩を進める。もうすぐだ。
