「ね~!!夏波、ちょっと聞いてよ!!」

朝、ドアを入ってすぐの出来事。

「どうしたの??千鶴」
「さっき、1組の子に聞いたんだけど~」

そこで千鶴は私を自分の方に引き寄せて、声のトーンを落とした。

「遥乃って、援交してるって…マジ??」
「は!?援交!?」
「声デカいって!!」

驚いたようにこっちをみる教室にいた人に適当に愛想笑いを振りまきながら千鶴が私の頭を叩く。

「ね。本当のところどうなの??アタシ、信じてはいないけど…うん。気になるし」

野次馬丸出しの千鶴がやけに神妙な顔をして私を見た。

「やってない、と思う…けど」
「そ、っか」

今にも「つまんないの」と言いそうな口調の千鶴に私はため息をつきながら鞄を下ろす。

「ってか、今日が終業式とかあんまり実感ない~。夏休み~♪」
「宿題バカみたいに出たけどね」
「アタシ、やんないもんッ♪」
「大学進学の意思は??」
「うーん……。特に??」
「あ、そ」

私が呆れて目を廊下に向けた時、唯がちょうど教室に入ってきた。

「あ、唯!!おっはよ~♪」
「……お、はよ」

小さく返すと唯は私に目も合わさずに自分の席につく。

「唯??」
「ちょっと私、遥乃たちのとこ行ってくるし」
「え?じゃあ、私も―……」
「ごめん。夏波は、来ない…で」

なんで―……

疑問が口に出たかはわからないけど。
とにかく、唯は曖昧に言い繕うと教室からそそくさと出て行った。

「なにアレ~!!何?ケンカ~??」

まるっきり状況を掴めていない千鶴。
私もだけどさ。


なんか

一人で


暗闇に取り残されたかのような、感覚。