私は『間違えてるよ』と返してケータイを閉じた。

すると、少ししてから『間違えたみたいですみません』と丁寧な返事が来た。
……普通そういうのって返す?

ケータイを隔てた向こうにいる『誰か』。


欲しかったのかもしれない。


ずっと、前から。


      わたし
本当の、『辻宮 夏波』を見てくれる『誰か』が。


気づくと、私は素早い動作でケータイを操作していた。

『突然ですみません。もしよかったらメル友になりませんか!?』

賭け、だった。
返ってくるかな?
でも、普通いきなりそんなのきたらキモいよね……。

少し沈んでいきそうになった私を呼ぶように、ケータイが震える。

『いいよ(笑)。俺、アイ。よろしく』
『ごく普通の女子高生のナナミっていいます!!アイさんはいくつですか??』

嬉しくて思わず顔がほころぶ。
誰かが、こんなにも近くにいる。
ただ、それだけで満足だった。

男の人なのに『アイ』か。
まぁ、本当の名前じゃないよね。
私は思わずリアルネームで送っちゃったけど。
うーん…、そういう所は抜けてる私って……。

また手元で震えたケータイ。

『23歳です。一応、今年の春から教師になるんだ』
『先生なんですか!?じゃあ、アイ先生って呼ぼうかな(笑)』

ふ、と顔を上げると窓の外に見慣れた景色が流れていく。
もうつくんだ……。
気づかなかった。
     
「終点ー、靉ノ内(アイノウチ)ー」

私は定期を出してバスから降りた。




ねぇ、お願い。



『私』を見て―......。