周りを見ると貴教しか居ない。これはもしかして…チャンス?
「…貴教。」
「な、何…?」
「綺麗だね。こんな場所を私は…ごめんなさい。」
「別に…元に戻っているし。それに僕は此処がどうなろうと知ったことじゃない。」
「冷たいよ?」
自然と笑えた。嬉しかった。ちょっとだけ、貴教との距離が縮まった気がした。
「それより僕が謝らないといけない…ごめん。」
「どうして…?貴教は悪くないよ、命令を背いたらどうなるか、私だって想像したら怖いから…」
「…ありがとう。」
「良いんだよ、こういうのはお互い様で…」
すると光がスッと消えた。戻ってきた世界はあの場所。美しい魔界の姿だった。
「玲実…」
「翔、私は大丈夫みたい」
笑ってみせた。
「皆ありがとう…」
「玲実…ホンマに良かった。」
「ううん…ありがとう、翔。翔のお陰だよ?」
翔の頬を撫でた。翔…私も好きだよ。大好き。いつもいつも…本当にありがと…う?ちょっと待って!私、今何て…?
…もしこれが本当なら何時の間に?だってそんなこと今まで一度も…う、うん。きっと一時のまよ、いなのかな…?
「玲実、ごめん…」
貴教が私の心を元に戻してくれた。そうだ、とりあえずあれは後で考えよう…
「貴教…良いって言ったじゃん。無事で良かった…」
口に出してみたけど、本当に心からそう思う。良かった…執事の皆も、良かった。でも、いっぱい迷惑掛けた…
「…お嬢様。そろそろ帰ろう?」
私の思いを察知したのか、佐藤さんの声は優しかった。
…うん、と目一杯の笑顔で頷いた。
ふと貴教のことが気になった。目が合う…
「僕は行けない…」
「どうして…?」
「僕は此処に残るべきだと思う。」
「でも…」
「良いんです。…それが、僕の定めだから。」
定め…私たちは一緒に居られない、定め。
「解った…私、ちゃんと此処に戻るから…きっと逃げ出さないから。だから…貴教も、此処に居て?」
「ええ、きっと…」
それから、貴教と別れて私はみんなと一緒に人間界へ戻った。