「貴教は優しいでしょ?」
「優しくなんか…」
「あるっ!…貴教は優しいよ。貴教、いつも笑顔だよ。どうせなら、私を刺してよ…だって私の所為なんでしょ?私の所為で全部が狂ったんでしょ?…どうして佐藤さんなの?こんなの、間違ってる…」
すると、貴教が胸ぐらを掴んだ。
「…じゃ、来て。殺すから。」
殺す…その言葉に怖さが出てくる。気持ちが揺れる。でも行かないとまた誰かが死んでしまう…それは嫌。もう嫌だ。
「佐藤さんは死なない?」
「かすり傷だよ、あんなの。」
「…もう他の人にはしないよね?みんな無事だよね?」
「大丈夫だよ。」
貴教は胸ぐらから手を離した。
「解った…」
私は頷いて貴教に近付いた。
「お嬢様、お願いだから止めて…」
「佐藤さん、命令破ったでしょ?」
「…守りたいと思うことは間違ったことでしょうか?」
守りたい…それは間違ったこと?ううん、違う。本当のことのはず。佐藤さんは私に頼れって言ってくれた。でも今は何にも頼ってない。頼れない…傷付くのが怖くて、傷付けるのが怖くて、ただ相手の思うように行動している。…でも佐藤さんには死んで欲しくない。
私は首を振った。
「…そう。良かったです、安心しました。」
「何が良かったの?私だって佐藤さんが傷付くなら自分が居なくなれば良いって思っちゃうよ!…残された人間は辛いんだよ?私だって嫌だ。死ぬってことはまだ全然想像できなくて、本当に居なくなったら私は何処にいくんだろう、何処に消えるの?って凄く不安だらけ…」
「五月蝿いっ!…僕の仕事が出来ないでしょ?僕だってこんなことしたくない。でも僕にしか出来る人が居ないんだ…僕だけがあの子を使えるから…」
「リルちゃんのこと?」
貴教の眉根がグッと上がって、険しい顔になった。…だめ、怯んじゃダメ。
「どうしてそれを知ってるの?」
「…キキさんが教えてくれた。ただそれだけ。」
すると貴教は私の腕を持った。
「死んでほしい場所がある…」
「解った…」
「お嬢様…っ!」
佐藤さん、ごめん…もうどれが正解か、解んなくなっちゃった。
「…行かないで」
私は…どうするのが良いの?答えは何処…?
答えがみつからないまま、私は貴教に連れていかれた。
連れていかれた場所はキキさんの棚だった。貴教は手順よく本を動かしていった。そして、最後の一冊を右に動かしたとき、棚が光った。
光が収まるとそこは、暗黒の薄暗い、不気味な場所だった。
「此処は…」
「魔界。貴女が壊した魔界だよ、フロリナ様。」