「…っ!」
目が覚めた。声にならない声がする。

貴教は、私に会ったことがある…?

「…お嬢様、大丈夫?辛い夢でも見た?」
「大丈夫だよ…ただ、昔が……」
「…昔?」
どうしよう…佐藤さんの顔を上手く見れない。
…反逆者って大貴が言っていたのはこの事?地下牢に関してすごく血相が変わるのも。そして地下牢で私が入ってきた瞬間、みんなから感じた殺意。執事のみんなが過保護で、私を大切にしてくれること。貴教の優しそうな瞳。お母さんから教えてもらった特訓も、きっとこの反逆者たちから守るため。ロイが私を眠らせたときに翔が激怒したのもきっとこのため。私は眠らされて記憶を失くしたんだから。初めて出会ったときの脱走癖もきっとこのときの習慣が残っていたんだろうな…
全てが一本の線になっていく。繋がる。
ふと、結実からもらった手紙が気になって開けた。
『玲実。突然ごめん…図書室には気をつけて。』
それだけの文だったけどこれもちょっと繋がっている…
でもどうして?図書室には貴教がいる。つまり、結実も反逆者?だから私のこと、覚えていられたってこと?私にだけ使用人って言って、翔たちには友達だからって言えばそこまでの違和感は無い。
それに私は何も魔界のことを知らない。…忘れていた。夢だけど夢じゃなかった。こう、現実を叩きつけられたような感じ。でも嫌だ。信じたくない…結実のこと、疑いたくない。
「佐藤さん…」
「…どうしたの?」
「私が魔界を追放されたのって六歳のとき?」
「どうしてそれを…お嬢様、何があったの?図書室?」
佐藤さんの顔色が変わった。こんなに焦った佐藤さん、見たことがないかも…
「お嬢様答えてっ!…お願いです。」
佐藤さんの表情が一気に辛いものになった。…こっちも辛くなる顔。ごめんなさいって言いたくなる顔。
「…夢が教えた。」
「夢…?さっきみていた?」
「そう…キキさんの小説開いたら眠っちゃって、そしたら私は小さくて、魔界に居て、衛兵に捕まって、地震が起きて、争いが増えて、記憶を奪われて、この世界に飛ばされた…」
すると佐藤さんは私を抱きしめた。そのあたたかさに触れて気付いた…私、怖い。糸がプツンと切れたみたいになって、涙が溢れてくる。止まらない…
「…その夢は、全部現実。確かに国は貴女を好きだったのから嫌いになった。しかし我々はお嬢様を嫌いになどなりません。」
「でも…全部私が壊したんでしょ?きっと大貴も酷い扱い受けたんでしょ?甘えられない…」
「…お嬢様。貴女はまだまだ子供。人間界に飛ばされて急成長したけど…どうか俺を頼って。」
佐藤さんの言葉が胸に響く。折角泣き止んでるって思ったのに…止まらない、溢れてくる。
暫くして涙も止まってきたとき、佐藤さんが優しく背中を撫でてくれた。