「さてと…話せる?」
数学が難なく過ぎると二人はすぐにやってきた。何というか…迫力が違う。
「大貴の所…行ってたの。ちょっと気になったことがあって…嘘吐いてごめん。」
「どうして嘘吐いたん?」
「だって二人に話したら二人とも付いてくるって思った、から…どうしても一人で大貴のところ行きたかった…」
「そっか…ありがとうね、話してくれて。」
私はそういう直樹の顔を素直に見られなかった。ただ首を降ることしかできない。
「下向かんといてくれへん?玲実の顔見たい…」
翔の優しい声がする。…私だって見られるなら見たいけど嘘、吐いたんだから。上がりそうな顔もなかなか上がらない…
「責めてるように聞こえたらごめん…ただ知りたいだけなんだ。玲実が大切だから…大切な玲実のこと知りたいって思ってしまうだけなんだ。」
「ごめん…なさ、い。」
私はやっと顔を上げた。二人は優しく笑っている。
「玲実が謝る必要ないやろ?玲実はなんも悪いことしとらんやん。」
「だって私…嘘吐いた。」
「確かに隠し事は無しや言うたけど…気にしたらあかん。せやって玲実やから。」
私、だから…?どうして?
不思議なことをいう翔に私は疑問符を打つばかりだった。
「…お嬢様はもっと色んな人が周りに居るって知ってる?」
大貴、翔、直樹、佐藤さん、浩也、龍二さん、結実、ロイ…今考えると沢山の人が周りに居てくれる。支えてくれる。
「うん…ありがとう、いつも。」
「でな、俺たちはそれが好きや。だからいっぱい迷惑かけて大丈夫。一人で済まされる方が辛いんや。」
「それに玲実が嫌なら残るよ、ついていかない。」
「ありがとう。」
素直に言葉になった。顔もすんなりと上げられた。笑えた。顔を上げたとき、玲花さんの気まずそうな顔と目があった。…少し寂しい目。
「やっぱ気になんの?玲花のこと。」
頷いた。気にするな、っていう方が無理なんだ。だって話し掛けてくれた初めての人。その人が寂しそうで、辛そうだから。
「あんま気にしんでも大丈夫やで。ああいうときは仲良うなるために自分整理しとるだけやから。」
「仲良く、か…」
そんなこと、何時ぶりだろう。考えて無かった。
「そういうのって考えても無駄でしょ?気付いたら仲良くなってるのが人だもん。それに人は相性の良い人もいれば悪い人もいるんだから…」
「…それは違う。」
佐藤さんの力強い声がした。
「…人と接するのが苦手で、出来ない人も居ます。それを無駄って二文字で考えてはいけません。」
何も言い返せなかった。自分の非だから。
「ごめん…」
それが、自分の中で整理して言えた、やっとのことだった。
「…謝ってほしいわけではありません。道を踏み外さないで居てほしいだけ。」
「ごめん…」
それしか喋れない。重い空気が漂う。
「せやから、そんな暗い顔したらあかん。言ったやろ?玲実は笑ってなあかんって…反省したんやったらもうええから、な?」
翔はあったかい言葉をくれた。心がほわって柔らかくなって、あたたかくなった。
「ありがとう。」
自然と顔が綻んだ。
「玲実はそれが一番や。」
翔は私の頭をぽんぽんと撫でた。あたたかい、優しい、大きな手。
「何か翔、お兄ちゃんみたい。」
「そ、そんなことあらへんてっ!玲実が妹?そんなんあったら一大事やわっ!」
少し焦り気味の声。不思議だけど突っ込まないほうが吉な気がする。
「…そろそろ社会です。準備をし始めた方が宜しいかと。」
佐藤さんの冷静な言葉により、翔と直樹は自分の席へ戻って行った。