とりあえず結実に名前を聞いてあの子は華僑院玲花ということが判った。
そして私は、お昼を食べ終えると大貴の部屋に寄ることにした。
「…失礼します。」
「どうしたのですか、玲実。」
「あ、あの。なんと…なく、かな?」
「それは私に聞かれてもどうしようもないでしょう。」
そりゃそうだよね。だってはっきりとした理由が無いんだから…ほんとうにどうしたものか…
「あと二時間です。頑張りなさい。」
「あり、がとう…ね、大貴。あの華僑院玲花って子は…」
「彼女はその名の通り一流企業の社長令嬢。しかし伊東グループとは格が違う。あの程度で一流呼ばわりできるのですからこの世界は意外と大したこと無いのです。…それより貴女はそんなことに余計な頭を使わなくていい。」
「…あのね、さっきの現国のときに赤崎さんって人が休んでたんだけど確か大貴の物理には全員出席してたと思って…」
大貴は相槌を打ちながら私の話を聞いてくれた。私が話し終えると私の頭を撫でた。
「気にしなくて良いことと言ったはずですが…彼女は理系科目以外は授業をサボるんですよ。自分には関係ないから、と…」
「そう…なんだ」
私はどう返せば良いのか解らなかった。だから声を篭もらせて返事を曖昧にするしか無かった。
「そろそろ…教室に戻った方がよろしいかと思いますよ。玲実が遅刻ではうちの者全員が血相を変えますからね。」
大貴の言葉に反射的になって見た時計の針はもう次の時間の十分前を指していた。
「ありがとう…じゃ、私行くね。」
それだけを言って私は大貴の部屋を出て行った。
そして次の授業は数学。赤崎さんの出るであろう授業。
私は急いで教室へと向かった。

「玲実…っ!」
「何処行ってたの?すごく心配した…」
教室までの一直線の廊下で翔と直樹に出会った。二人は私を見つけるなりすぐに走った。
「トイレとか言っておきながら全く帰ってこないから…」
「ごめん…少し、気になったことがあったから大貴の部屋まで行ってたの。」
「俺らには言われへんようなことなん?」
私は黙って首を降った。言えないことでは無いが、言いにくい。
「…此処で喋っていたら数学に遅刻です。数学の後でも話せませんか?」
救いの手は佐藤さんだった。
私はありがとうと頷いて、みんなと一緒に廊下を駆けた。