そのとき、ガラリと扉が開いた。そしてあの高飛車だった女の子たちやクラスで見た顔の生徒がゾロゾロと入ってきた。みんなは私の顔を見るなりちょっと怪訝そうな顔をしたけど。やっぱり私が気にくわないのかな…そりゃ、二年間寝て過ごしたやつとクラスメイトってちょっと嫌か。
「あ、あの…」
ちょっと声を掛けてみただけ。だけどフイッと顔を逸らされてしまった。そしてそのまま席に着いた。
私はどうすれば良いのか解らなくなっていた。
「…少しずつ打ち解けられるはずです。急がば回れ、ですよ。」
そう言う佐藤さんの言葉が少しだけ気持ちを楽にしてくれた。
「ありがと、佐藤さん」
「…当然のことをしたまでです。では私はこれで。」
そして佐藤さんが執事の定位置っぽいところに着くと同時にチャイムが鳴った。そして河内先生が入ってきた。白髪混じりの黒髪で背は少し大きい。眼鏡の奥の瞳がキラと光っている。だけど険しい顔つき。何か言葉は荒くても日本語をちゃんと理解している先生だって直感が言ってる。
「では授業だな…まず、欠席者と遅刻者は?」
「赤崎さんが欠席です。」
高飛車な子が言った。…そう言えばあの子って名前何?
「赤崎は今日もか…とりあえず授業をする。教科書百十一ページだ。」
パラパラと教科書の捲れる音がしんとした教室にこだました。

「…ということで、続きは次だ。」
その時、タイミングバッチリでチャイムが鳴った。全員で礼をして授業が終わった。
…河内先生の授業ってすごく分かり易い上に面白い。現代文が楽しみになりそう。
「…伊東。ちょっと来なさい。」
河内先生が私を手招きした。すぐに階段を降りて先生の所に行った。
「これを…伊東が居なかったときの授業を纏めたプリントだ。次の定期考査の範囲内だからこれを使いなさい。また解らなければ私に聞きに来なさい。」
そう言って先生はプリントの束をくれた。意外と量が多い。
「ありがとうございます、河内先生。」
「いえいえ…しかし君は少し勿体ないね。日本語をよく解っているのにも関わらず使いこなせていない。それに周りの気持ちを汲み取るのが少し苦手なようだ。」
先生とはこの授業で初めて会って話も特に何もしていないのにここまで私を分析している…
「少し難しかったかな?でも何れ君はこの言葉を理解できるときがくる。それまでは何も知らずに楽しみなさい。」
先生はそう言うと教室を出て行った。
…すごく不思議な先生だった。そして何か引き込まれていく感覚がある。
「玲実、ご飯食べよ?」
暫くぼぉっとしていたからなかなか気付かなかったけど周りには結実がいて、翔もいて直樹もいて浩也がいて佐藤さんもいた。
河内先生の言葉はこういうこと?…でも、何かが違う気もする。一体何が答えなんだろう。
「ありがとう。」
とりあえず考えていたってどうしようもない。私は結実の誘いに頷いてセミナールームを出た。