気付くと其処は保健室だった。
「あ、気付いた?……今、ご飯用意するわ。」
麻奈美先生が優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫だよ、先生。」
「大丈夫じゃないわっ。昨日から、何も食べてないんでしょ。何か食べなかったら死んじゃうわっ。」
…先生は変わっていない。良かった。
「でもね、麻奈美先生。皆私を忘れている。こんな私なら、居なくなっても誰も寂しがらないよ…」
…こんな言葉、初めて言った。今まで生きていて楽しかった。でも、どうして楽しくないんだろう?皆、どうして忘れているのだろう?
そんな事を、初めて言った。
「…ねぇ、どうして私の名前を知っているの?…何処かで会ったっけ?……あっ、これ、今日の給食だから、食べて頂戴っ。ね?」
…先生は、只普通に接しているだけで覚えてないのか。淡い希望を持って、損した。
「ごめんなさい。ちょっと、名札を見て言ってみただけで…じゃあ、頂きます。」
私は、誤魔化してからパンを食べた。
「…そうよね。名札があれば、名前なんて分かるものね…それにしても良い食べっぷり。」
麻奈美先生の声は謎めいていた。でも今はそんな事よりも食べることが優先だった。久しぶりのご飯が何時もより美味しく感じる。次から次へと頬張っていく。美味しい。
食べ終わると、暫く私は麻奈美先生と話した。私が体験したこと全部。お母さんが私を覚えていないこと。本当は此所の生徒であること。それと麻奈美先生は私がお世話になっていて、大好きな先生だってこと。麻奈美先生は不思議そうに、でも真剣に聴いてくれた。
「…ごめんなさい。あなたの事は、あまり分かんないわ…。でもそれは、きっとそれは本当な気がする。あなたの目や、表情。言葉をみていると本当のように感じる。力になれる事はできるかぎりしてみるわっ。」
…先生っ!
「その言葉、本当ですかっ?嬉しいですっ!」
やっと、信じてくれる人に会えた。ただそれだけで嬉しかった。
「ええ。本当よ。」
「……じゃ、じゃあっ。また、此所の学校の生徒になりたいっ。2ーSのっ!」
「分かったわ。でも…難しいと思う。きっと転校という形になると思うし…」
嬉しかった。転校でも構わない。学校がこんなに嬉しいと思ったのは初めてだった。