「此処は…」
しばらくして私は目を覚ました。だけど目の前は真っ暗。解らないという恐怖が押し寄せる。
まだ意識はぼうっとしていてどういう状況なのか、全く解らない。それに頭も若干痛い。
辺りをゆっくり見回すと向こうの方に人がいた。ゆっくりと近付いてみる。あの立ち姿は…
「翔…?」
そう言うとその人は振り向いた。確かに翔だ。
でも私に気付くと酷く冷たい顔をして走って逃げて行った。
どうして…?どうして翔が?翔はいつも私の側で笑ってくれる。それは私が学校に行ってたときもそうだった。
「翔…翔っ!待ってよ…置いてかないで!」
叫んだ。力の限り大声で叫んだ。けど、翔は振り向くどころかスピードを上げて去っていった…
ドンッと大きな地響きがあった。
すると今度は目の前に直樹がいた。
「直樹…っ!」
直樹は何の躊躇いもなく私の右足を刺した。
「この足が無ければ大貴様は…大貴様はっ!」
痛い。でも声が出ない。恐怖が襲いかかって離れない…どうして私を刺すの?

…逃げなきゃ。逃げなきゃ殺される。

直感がそう言った。私は使い物にならない足を放っておいて匍匐前進で進んだ。直樹はナイフを持ったまま追いかけてくる。走ってこないのが唯一の救いだ。
「…っ!」
直樹はずっと追いかけてきていたのに暫くすると消えていた。かわりに、鈴木さんが立っていた。
「お嬢様っ!その足…、直樹にやられましたか…」
「鈴木さんは…何も変わらない?」
「経験者ですので。お嬢様、これは覚醒者誰もが必ず体験することです。大切な人からの拒絶は心苦しいと思うでしょう。しかし目が覚めるといつもと何も変わらないみんながいます。これは夢での出来事。…私はそろそろ行かなくてはいけませんがみな待っています。どうかあと少し、耐えてください。」
そう言うと鈴木さんは小さく笑って消えた。
私はまた、意識を手放した。
意識を取り戻したとき、私の目の前には大貴が居た…

意識を手放すことはもう何回も繰り替えした。手放す度に、みんなからの苦痛を受けた。龍二さんや佐藤さんからも受けた。でも、鈴木さんと会えたのはあのときだけ。私はどんどん深いところへと堕ちていく。

しかしふっと浅いところへ戻ってきた気がした。
瞼がスッと開く。