「はぁ…」
うん。やっぱり一人って落ち着く。
なんとかあのまま抜け出す事が出来て良かった。
…にしてもあの人たち、本当に執事なのかなぁ?言い合いばっかりだし。と言うかあのままだと学校に行きたくない…麻奈美先生だって覚えていないし、お母さんだって覚えていない。きっと結実も私の事なんて忘れている。それに…あのまま学校に行くとクラスから…いや、学校全体から叩きのめしにされる。
「……はぁ」
やっぱり一人で居ようかな?でも、あんなに行きたいって言ったし…
「はぁ……」
…これから、か…どうする、って言われてもなぁ…それはそれで困るよな…
「…はぁ」
「これで四回めやなぁ。大丈夫なんかぁ?」
「はあ…」
首を振る。こんなんで大丈夫なワケがないよ…
「はい、五回めぇ~」
…?あきらか自分とは別の声…
そぉっと振り返る。すると後ろには田辺君の姿が。
「うわぁああっ!!い、何時から…?」
「…お嬢様が入っていったあたりから。」
「というよりお嬢様は私共が入った事にお気付きになられなかったのですか?」
「…に、人間、そ、そういう事も……あ、あるので…」
「そうそっ。次・期・魔王様はまだまだ人間っ人間っ。」
オ、オールスターかよぉぉおお…
…よりによってこのタイミング……まぁ、居てくれると嬉しいっていうのも少しはあるけど…
「でもノックくらい……」
してくれても良かったんじゃないのかなぁ…?
「ノックて…ほら、執事とお嬢様の間には隠し事無しやて言ったばっかやん。それに俺は一番あんたに近いんよ。せやからする必要無しっ!」
「そんなの困るよ…」
すると、キョトンとした顔。
「だって人間…一人になりたい時だってあるよ…」
さらにキョトンとする皆。
「そんなに…可笑しい事…?」
「…・・・い…」
ポソッと佐藤さんが言った。よく聞き取れなかった。でも皆は頷いている。あの…余計知りたいんだけど…
「あ、あのぉ…えと、その…お、お嬢様の所には…その、わ、ワケありで来たのでして…えと…そ、それで・・・あ、あとえとそのあの…あわわわああああ」
…完全に混乱しちゃってるよこの人。すると、田辺君が助太刀を入れた。
「せや。ワケありワケありっ。アンタにはこれから魔王となるべく、修行をしてもらうねんな。」
「お嬢様、これは必須☆事項なので宜しくお願いします。」
そう言って執事長は私に紙を差し出した。一瞬で、泡を吹きそうになった。何なんだこの尋常じゃない量はっ。…一体どうなってしまうんだろう、私の脳みそ…紙にはかなり小さな文字で書かれているけどびっしりと埋め尽くされている。
…は?な、何?この一番下の『学校の勉強』ってのは。
そりゃ学生だし必須☆事項ではあるけどっっ。…気が重くなりそうな…
「あ、えと…そ、その…あとえと……そ、そのっっ。学校の勉強は、田辺と桐本も…なので……それに…その、魔王様のお教えによるモノなので…だ、大丈夫…かと……」
よりによって先生かよぉぉおお・・・まぁ、大貴先生の授業分かりやすいけどさ…
肩を落す私と対象的に、桐本直樹は興奮を隠せない様子。
「はぁ…大貴様に教えてもらえるなんて…っ!とても嬉しすぎて御飯四杯いけちゃいそう…っ!」
…目がキラキラと輝いてるよ……というかその台詞の使用例は違うような…
「…にしても、魔界の事は本当に忘れたんだやなぁ…」
不意に田辺くんがぽつりと言った。
「魔界…?」
「そ、魔界。居ったんやで。あん時はすっごい可愛かったなぁ」
…そんな場所…異空間だとばかり思っていたけど…本当にあるんだ…
「…今もだけど?何勝手に過去形で話してんの田辺。」
さ、佐藤さん、そういう事はやすやすと口に出さないでほしい…
「だってさ、そんなん分かりきっとるやん。」
田辺君まで可笑しいよっ。そんなのあるワケ無いじゃん…
「…とりあえず、今日は大貴様は学校なので勉強は無し。今日中に色々と雑務を片付けてしまいましょうましょう。」
執事長の言葉に皆頷いた。勿論、私も。