今日のゲンさんの収入は上々だったらしい。金の価値がわからない俺でも察することができたのは、朝と比較してゲンさんとミズさんの機嫌が良かったからだ。
とにかく、千代丸とピヨの働きが並じゃなかった。それもそのはず。二匹は俺が認めたチート能力を持つ二匹である。しかも千代丸は心が読めるし、ピヨは鳥目だ。
目の前で人間が捨てた袋の中に何が入っているのか、千代丸は中身を見なくてもわかるのである。そして、鳥目であるピヨは遠くにある物を見逃さない。
ピヨが金目になりそうな物を見つけて「ピヨッピ」と鳴けば、千代丸が「にゃわーん」となく。ゲンさんが自転車を降りて確認にいく。
この異種間の連携プレーに、俺の入る余地はなかった。
けど、俺もすこしは頑張ったんだぞ。捨てられている金属を見つけたんだから。
どうやら俺は、千代丸やピヨより嗅覚が発達しているらしい。そうわかったのが俺にとっては、何よりの収穫だった。
家に着くと先に帰ってきていたミズさんが、朝と同じようにガスコンロで料理をつくりはじめていた。仕事帰りに銭湯に行ったのだろう。ミズさんから、微かに石鹸の匂いがしていた。
まずミズさんは、小鍋に貝ヒモを入れると醤油とミリンと酒を入れて甘辛く煮はじめた。
その隣ではゲンさんが、鳥の膝ナンコツを炒めはじめる。火が通ったのを確認すると、いくつか鳥の膝ナンコツを皿に取り出してから、ネギを入れた。
ネギを入れる前に鳥の膝ナンコツを取り分けたのは、俺たちに渡すためだろう。猫はネギ類を食べると中毒を起こすからである。
こちらの味付けは塩ダレのようだ。嗅いだだけで食欲がわき、生唾が出てくる。
「よし、こっちは煮えたぞ。続けてこいつだ」
ミズさんは貝ヒモが煮えたのを見ると、すかさず鍋を入れ替えた。そして、冷凍枝豆を投入する。冷凍枝豆を煮ながら、ミズさんは煮えた貝ひもを刻んで、発電機のお蔭で仕事をしている炊飯器の中に入れる。どうやら焚きこみご飯にするつもりようだ。
この工程をミズさんが終える前に、ゲンさんは鳥の膝ナンコツとネギの炒め物を完成させていた。出来た物を皿に盛ると、買い物袋から豆腐とムキエビを取り出して、つなぎの片栗粉とともに混ぜ合わせる。
ここで作業を終えたミズさんが枝豆を煮ていた火を消すと、ゲンさんの隣に立って、共同作業をはじめる。混ぜた豆腐とムキエビでハンバーグをつくり始めたのだ。
出来たハンバーグをゲンさんが焼き、ミズさんは豆腐ハンバーグにかけるアンをつくる。
二人とも、かなり手際がいい。これは、貴重なガスを無駄に使わないために得た経験と知恵なのだろう。
「どんなに高級食材でも一人で食べるのなら、食事も楽しくないだろう? そこいくと俺たちは幸せだよ。安い食材で美味いものをつくる。仲間と酒があれば、もっと幸せだ。おっと、炊き込みご飯ができたみたいだな。豆腐ハンバーグもできたし、食事にするか」
ゲンさんが焼いた鳥の膝ナンコツを俺たちに渡してくれる。いつの間に焼いたのか、小さな豆腐ハンバーグも隣にあった。
並んだ料理の匂いにつられたのだろう。ビニールテントから、一人二人と出てくる。
「ミズさん。枝豆を煙草と交換しないか?」
「ゲンさん。怪我は大丈夫か。怪我に効く軟膏はもういらないか?」
あっという間にミズさんとゲンさんの周りに仲間が集まってくる。それぞれが食べ物や嗜好品を持ち寄ってきて、交換会がはじまった。
そんな賑わいの中で、
「今日も大輝がきたんだって? あの工場社長、自分のガキぐらい厳しく躾をしろってんだ」
頭にタオルを巻いた男が、ビールを飲みながら愚痴った。
「無理だろ。前の嫁のガキなんだから。嫌われないように必死なんだろうさ」
「倒産しかけた工場を救ったのが、今の嫁の金の力って言ったっけ? そりゃ、母親が病気で亡くなって、二か月後に新しい母親を紹介されたんじゃあ、ひねくれもするわなあ」
この会話で、あの子供がゲンさんに「死ね」とまで言った理由が何となくわかった。
会社が倒産しかけた自分の父親も、ホームレスになる可能性があったからだ。しかし、その感情が殺意まで至るのかという疑問が出てくる。
おそらく、父親と大輝という子供に、俺たちが知らない確執が生まれているのだろう。
俺はしばらく考えてから、こう推測する。
愛情をたっぷり受け、幸せな環境で育った少年だったが、突然、母親が帰らぬ人となった。そこに父親が新しい母親を連れてくる。子供からしてみたら、父は母を愛していたはずなのに、自分の気持ちを無視してまで違う女性と共に過ごすのか。と思ったに違いない。
次第に父親が憎くなる。作業着の父が、似た作業着を着ているホームレスに重なって見えてくる。新しい母親の金の力で、会社を立て直すことができた情ない父親。そう悩む自分の前で、父もホームレスも幸せそうに笑っていたのなら?
どうしようもない自分の怒りの吐け口を強い者ではなく、弱い者にぶつけるという行為は、子供がよくやるイジメというものだ。
そう、俺の愛しの女子高生、愛奈がされていたように。
「いや……この場合、反抗期も混ざっているのかな。親父に甘えたいのに、甘えられない環境に苛立っているのかも」
「相変わらず、ボロス殿はいろいろ考えますなあ」
鳥の膝ナンコツを噛み砕きながら呟く俺に、千代丸が返してくる。こいつ、また俺の心を読んだな。
「ボロス殿は何か考えている時に、急に無口になるから……それで気になって読んでしまうのです」
「そうなのか? その癖、全く気づかなかった。とはいえ、どうするかなんだよな」
「また無口になった」
「ピヨッピピピー」
「すこし黙っててくれない? 集中できないからっ!」
乗りかかった船だ。途中でやめたくないし、何よりやめたら後味が悪い。
そして、ゲンさんたちにも良くしてもらったので、何とか解決してやりたい。
「黒犬の飼い主に変化した時のように、拙者があの子供の父親に変化して、ガツンと言ってやりましょうか?」
「いや、そうしたら逆にこじれるだろ。って……ああっ、そうか。その手があったか! 千代丸、今から俺が指示を出す。だからその通りにやってくれ。きっとうまくいくはずだ」
「……今度は読む暇がなかったでござる」
不満なのか納得できないのか、千代丸がつぶやくが今は無視だ。これならきっとうまくいく。しかも、誰も傷つけることなく。
明日、実行しよう。けれど、実行することができるシチュエーションはくるのか。
その日、俺とピヨはその機会がくるのを待つため、千代丸とともにゲンさんがいるビニールテントで一夜を過ごすことにしたのだった。
とにかく、千代丸とピヨの働きが並じゃなかった。それもそのはず。二匹は俺が認めたチート能力を持つ二匹である。しかも千代丸は心が読めるし、ピヨは鳥目だ。
目の前で人間が捨てた袋の中に何が入っているのか、千代丸は中身を見なくてもわかるのである。そして、鳥目であるピヨは遠くにある物を見逃さない。
ピヨが金目になりそうな物を見つけて「ピヨッピ」と鳴けば、千代丸が「にゃわーん」となく。ゲンさんが自転車を降りて確認にいく。
この異種間の連携プレーに、俺の入る余地はなかった。
けど、俺もすこしは頑張ったんだぞ。捨てられている金属を見つけたんだから。
どうやら俺は、千代丸やピヨより嗅覚が発達しているらしい。そうわかったのが俺にとっては、何よりの収穫だった。
家に着くと先に帰ってきていたミズさんが、朝と同じようにガスコンロで料理をつくりはじめていた。仕事帰りに銭湯に行ったのだろう。ミズさんから、微かに石鹸の匂いがしていた。
まずミズさんは、小鍋に貝ヒモを入れると醤油とミリンと酒を入れて甘辛く煮はじめた。
その隣ではゲンさんが、鳥の膝ナンコツを炒めはじめる。火が通ったのを確認すると、いくつか鳥の膝ナンコツを皿に取り出してから、ネギを入れた。
ネギを入れる前に鳥の膝ナンコツを取り分けたのは、俺たちに渡すためだろう。猫はネギ類を食べると中毒を起こすからである。
こちらの味付けは塩ダレのようだ。嗅いだだけで食欲がわき、生唾が出てくる。
「よし、こっちは煮えたぞ。続けてこいつだ」
ミズさんは貝ヒモが煮えたのを見ると、すかさず鍋を入れ替えた。そして、冷凍枝豆を投入する。冷凍枝豆を煮ながら、ミズさんは煮えた貝ひもを刻んで、発電機のお蔭で仕事をしている炊飯器の中に入れる。どうやら焚きこみご飯にするつもりようだ。
この工程をミズさんが終える前に、ゲンさんは鳥の膝ナンコツとネギの炒め物を完成させていた。出来た物を皿に盛ると、買い物袋から豆腐とムキエビを取り出して、つなぎの片栗粉とともに混ぜ合わせる。
ここで作業を終えたミズさんが枝豆を煮ていた火を消すと、ゲンさんの隣に立って、共同作業をはじめる。混ぜた豆腐とムキエビでハンバーグをつくり始めたのだ。
出来たハンバーグをゲンさんが焼き、ミズさんは豆腐ハンバーグにかけるアンをつくる。
二人とも、かなり手際がいい。これは、貴重なガスを無駄に使わないために得た経験と知恵なのだろう。
「どんなに高級食材でも一人で食べるのなら、食事も楽しくないだろう? そこいくと俺たちは幸せだよ。安い食材で美味いものをつくる。仲間と酒があれば、もっと幸せだ。おっと、炊き込みご飯ができたみたいだな。豆腐ハンバーグもできたし、食事にするか」
ゲンさんが焼いた鳥の膝ナンコツを俺たちに渡してくれる。いつの間に焼いたのか、小さな豆腐ハンバーグも隣にあった。
並んだ料理の匂いにつられたのだろう。ビニールテントから、一人二人と出てくる。
「ミズさん。枝豆を煙草と交換しないか?」
「ゲンさん。怪我は大丈夫か。怪我に効く軟膏はもういらないか?」
あっという間にミズさんとゲンさんの周りに仲間が集まってくる。それぞれが食べ物や嗜好品を持ち寄ってきて、交換会がはじまった。
そんな賑わいの中で、
「今日も大輝がきたんだって? あの工場社長、自分のガキぐらい厳しく躾をしろってんだ」
頭にタオルを巻いた男が、ビールを飲みながら愚痴った。
「無理だろ。前の嫁のガキなんだから。嫌われないように必死なんだろうさ」
「倒産しかけた工場を救ったのが、今の嫁の金の力って言ったっけ? そりゃ、母親が病気で亡くなって、二か月後に新しい母親を紹介されたんじゃあ、ひねくれもするわなあ」
この会話で、あの子供がゲンさんに「死ね」とまで言った理由が何となくわかった。
会社が倒産しかけた自分の父親も、ホームレスになる可能性があったからだ。しかし、その感情が殺意まで至るのかという疑問が出てくる。
おそらく、父親と大輝という子供に、俺たちが知らない確執が生まれているのだろう。
俺はしばらく考えてから、こう推測する。
愛情をたっぷり受け、幸せな環境で育った少年だったが、突然、母親が帰らぬ人となった。そこに父親が新しい母親を連れてくる。子供からしてみたら、父は母を愛していたはずなのに、自分の気持ちを無視してまで違う女性と共に過ごすのか。と思ったに違いない。
次第に父親が憎くなる。作業着の父が、似た作業着を着ているホームレスに重なって見えてくる。新しい母親の金の力で、会社を立て直すことができた情ない父親。そう悩む自分の前で、父もホームレスも幸せそうに笑っていたのなら?
どうしようもない自分の怒りの吐け口を強い者ではなく、弱い者にぶつけるという行為は、子供がよくやるイジメというものだ。
そう、俺の愛しの女子高生、愛奈がされていたように。
「いや……この場合、反抗期も混ざっているのかな。親父に甘えたいのに、甘えられない環境に苛立っているのかも」
「相変わらず、ボロス殿はいろいろ考えますなあ」
鳥の膝ナンコツを噛み砕きながら呟く俺に、千代丸が返してくる。こいつ、また俺の心を読んだな。
「ボロス殿は何か考えている時に、急に無口になるから……それで気になって読んでしまうのです」
「そうなのか? その癖、全く気づかなかった。とはいえ、どうするかなんだよな」
「また無口になった」
「ピヨッピピピー」
「すこし黙っててくれない? 集中できないからっ!」
乗りかかった船だ。途中でやめたくないし、何よりやめたら後味が悪い。
そして、ゲンさんたちにも良くしてもらったので、何とか解決してやりたい。
「黒犬の飼い主に変化した時のように、拙者があの子供の父親に変化して、ガツンと言ってやりましょうか?」
「いや、そうしたら逆にこじれるだろ。って……ああっ、そうか。その手があったか! 千代丸、今から俺が指示を出す。だからその通りにやってくれ。きっとうまくいくはずだ」
「……今度は読む暇がなかったでござる」
不満なのか納得できないのか、千代丸がつぶやくが今は無視だ。これならきっとうまくいく。しかも、誰も傷つけることなく。
明日、実行しよう。けれど、実行することができるシチュエーションはくるのか。
その日、俺とピヨはその機会がくるのを待つため、千代丸とともにゲンさんがいるビニールテントで一夜を過ごすことにしたのだった。



