ボロスとピヨのてんわやな日常

 俺は何故気づかなかったのだろうか。チート設定である強気のピヨが、ここ数日、やけに静かだったということを。
 忍者のタマゴの千代丸。そして、幽霊の親父。三帝王のひとりである美姫。この三匹のキャラの濃さを前にして黙っているのかと思ったが、それが俺の勘違いだったというのなら。ずっと前から体調を崩していたというのなら。クロに与えた一撃のサクッが、限界で繰り出した一撃だったのなら。
 田舎に行く前には雨にも遭った。山にも行ったし、犬の霊体にも襲われたし、カルガモたちとも会ったし。そして、今回のクロとカギとの恋愛騒動。
 疲れたのは確かだし、病気になる可能性が高い場所に行っていたのも事実だ。心身ともに限界がきたら倒れる状態には近づいていたはずだろう。しかもピヨは俺とは違い、体が成熟していない子供というか、まだ赤ん坊にちかいヒナだ。
「……無理をさせたのは確かだけど、お前、チート設定じゃなかったのかよ」
 ピヨはぐったりとして目を閉じたまま動こうとしない。熱もあるようだし、これはまずいのではなかろうか。
「渡り鳥とも会ったしなあ。鳥インフルエンザとかの可能性もあるぞ。それに、犬の霊体とも接触したし、なにかしら変な影響を受けている可能性があるかもしれん」
 俺が思ったこと、そのままに親父が説明する。美姫もピヨを心配して覗きこんできた。
「病気ならやっかいだね……シマ、あんたこの子を診せるあてはあるのかい?」
 美姫は俺をボロスと呼ぶのに抵抗があるらしく、すこし間をおいてから、俺の名をシマと言っていた。確かにボロスが二匹いると、親父か俺、どちらが呼ばれたのかわからずに混乱しそうだ。それなので、俺は気にしないことにした。
「俺は野良だし、人間とも深く接してないから、ピヨを診せるあてはないな。どうしたものか……このままというわけにもいかないし」
 言ってから変だなと思った。ピヨは俺の餌だ。それなのに心配している俺がいる。頭の中には、どうしたら助けてやることができるのか? という想いしかない。
 美姫は低い唸り声を出して悩んだ素振りを見せてから、口を開いた。
「私が、いい医者を知っているよ。人間じゃないけどね。ちょっと性格に難があるが、腕は確かだ。西の街にいる」
「ハクジャかあ。わし、あいつのこと苦手なんだよな」
 美姫の言葉に親父が続けて言う。ハクジャって、どこかで聞いた名前だけど誰だっけ。
「三帝王のひとりだ。西の帝王のハクジャ。博識な奴でな。医療にも詳しいから、皆が困った時に相談しに行くんだ。ただ、あいつ生きているのか? 相当の年だと思うが」
「死んだとは聞いてないねえ。それに、あいつは殺しても死なないんじゃないのかい?」
 俺がいるというのに、親父と美姫が話をどんどん進めていく。というか、この二匹。散々なことをハクジャに言っているな。同じ三帝王というのに、三匹がどのような関係なのか推測できない。
「住んでいるのは西の社でね。時々、出てきて近所の人に餌をもらっている爺さん猫さ」
 西の社は俺も知っている。何故なら、春がくると地域の祭りがそこで行われるからだ。まだ、定住の場を決めてなかった頃、行ったことがある。あそこに住んでいたのか。しかし、猫の姿なんて見なかったぞ。
「ピヨくんの様子からすると、すぐにでも行ったほうがいいな」
「じゃあ、すぐに行こう。ピヨ、大丈夫か? すぐに医者に診てもらえるからな」
 自分から俺の背中に乗れないピヨの首筋を、軽くくわえて持ち上げる。少し痛いかもしれないが、この際しょうがない。
「じゃあ、私が先導するよ。ちゃんとついてくるんだよ」
 美姫はそういって走り出す。その後ろにピヨをくわえた俺、親父と続く。
 家猫といっても、美姫は地理に詳しいらしく、車通りの少ない道を選択していく。これは、ピヨをくわえている俺にはありがたかった。
 西の街にはあまり行ったことがないので、俺はほとんど地理を知らない。そのため、親父が後ろについていてくれるのも心強かった。引き離されたら、確実に迷子になるからな。
 走って十五分くらいで目的地に着く。疲れて足がまるで棒のようだ。しかし、霊体である親父ならまだしも、美姫は息切れをしていない。
 このお嬢さま、完全に規格外だな。能力ではピヨに近いものがあるのではないだろうか。改めて三帝王だということを思い知らされた。
 久しぶりに見た社は荒れていた。賽銭箱の鉄の部分は錆つき、建物自体も腐り落ちているところがある。これだと、野良猫が出てきても不思議ではない。
「ハクジャ! いるなら出てきてくれ。急患だぞ」
 親父が大きな声で、中にいるであろう三帝王のひとりを呼ぶ。すると、ガタガタと音を立てながら扉が開き、薄汚れた手が出てきていた。