あまりにも予想外のことだったので振り返ることにしよう。
伝説の猫とも言われる俺たちの街のボスである美姫。その美姫と前に付き合っていたという親父。そして、美姫は大の男嫌いと聞く。ついでに親父は言い難いことだと、美姫との関係を黙っていた。
なにか嫌な予感しかしないのですが。もう選択肢はないでしょ。絶対に親父と美姫さん、何かあったはずだよ。おなかが痛くなってきた。帰りたくなってきたあ。
と、悩みながらも、目的地に着いてしまう。親父はいつの間にか姿を消していた。
くそう、ここで言い逃げかよ。といっても、姿が見えても説明に困るのだけど。
「ピーヨピッピッヨピー」
催促を促すようにピヨが背中から話しかけてくる。
言われなくてもわかっているのだ。ここで悩んでいても仕方ない。こうしている間にも、カギがクロに喧嘩をうられて大怪我するかもしれないのだ。
「美姫さま。隣町のハナさんから受けた相談を伝えにきました。中にいたら話をお聞きください。お願いします!」
ハナちゃんに言われた通り相談を受けてきたと叫ぶ。これなら、男嫌いの女帝でも、姿を見せてくれるはずだ。
しばらく静かに待っていると、窓越しのカーテンが揺れた。そして、カーテンが開いて顔が出る。更にカーテンが開かれると、その体躯がはっきりと確認できた。長毛で奇麗な黄金色。そして大きい。これは噂通りだ。伝説の猫、美姫はメインクーンのゴールデン種だった。
その美姫は、俺を一瞥すると器用に鍵を開けてから窓を開ける。
そして、周囲の様子を窺いながら、外に出てきた。普通は臆病な者が警戒態勢をとるものだ。しかし、この美姫には違う印象を受けた。それはまるで、高い身分の者が自然に放つ威厳。
大きな体にものをいわせる腕力と子分を率いての数で圧倒させるクロとは違う。自然と放たれる圧迫感。これが三帝王のひとりかと唸ってしまった。
「話は聞いているよ。悪い男に言い寄られているってね。あんたがハナの相談を受けたということは、その悪い男ではないということさね。さて、では、詳しい話を聞こうかね。まず、あんたの名前は?」
そうくると思った。相談するということは、当然、名前をいうのが礼儀なわけで。けれど、俺は自己紹介をし難い理由があったのである。つまり、名前だ。俺の名前は親父と同じ。そんな俺が自己紹介したらどうなるのか?
親父の前の女だぞ。俺は何故、二人が別れたのか経緯を知らない。しかも相手は威厳ある女帝。一言間違えたら猫パンチをくらって、噂通りにお星さまになる可能性が高い。しかし、嘘をついてバレた時も怖い。
「僕の名前はシマです」
追い詰められた時というのは凄い。いつも以上に機転が利くようになるのだから。俺は咄嗟に、佐藤家の婆さんに呼ばれているシマという名前を借りて自己紹介をしていた。
「シマかい……見たままの名前だね。で、あんたとハナの関係は?」
「ハナさんのお友達であるカギくんの親友が僕です。その親友が悪い男に喧嘩をうられそうで。美姫さまに助けてほしいのです」
「そのカギというオスはハナのことが好きなんだろう。好きな女は自分の力で守るというのが男というものさね。そうでないと、愛を勝ち取ろうなんて十年はやいよ」
美姫は俺の話を聞くと、興味をなくしたように家に入ろうとする。せっかく来たのにここで終わりか。しかも親友の悪口まで言われて。俺は感情を抑えることができなかった。
「俺の親友のカギは、相手を傷つけるのが嫌いなんだ。それがどんなに汚い相手でも! あいつは相手を傷つけるより自分が引くことを選ぶ奴なんだ。そんな奴のどこが男じゃないんだ。あいつは力を示して相手を壊すよりも優しさを優先する男なんだ!」
そこで美姫の足がとまった。俺は思わず息を呑んでしまう。感情に任せて言いすぎたか。と、思ったら、美姫は笑いはじめた。
「ハハハッ、あんた、面白い男だね。この私に言い放つ男と会うのは五年ぶりだよ。すまないね。今のは、あんたを試したのさ。さあ、行こうか。その悪い男を懲らしめに」
美姫は俺だけでなく、ピヨにも視線を動かすと、微かに笑いながら歩きはじめる。俺は慌てて、道案内するために前に出た。
「シマとやら、私に遠慮しないで思いっきり駆けてもいいんだよ」
「では遠慮なく。美姫さんの足を信じて思いっきり」
後ろ足に力を入れ、思いっきり地を蹴る。メインクーンが俺についてこられるのかと思ったら、後ろにつくどころか、俺に並走していた。
「ヒヨコを背に乗せているなんて、面白いね。どういう経緯で一緒にいるのかわからないけど、私はあんたが気に入ったよ」
可愛いメスに気に入ったと言われるのは嬉しいが、相手が三帝王のひとりとも言われる女帝ともなると、複雑な気持ちである。
更にスピードをあげても、美姫は遅れることがない。生まれからの威厳だけではない。体の大きさではない。確かに美姫には、三帝王のひとりといわれる力がある。
そして、全力疾走して五分。俺と美姫は、カギとクロ、ハナの姿を確認していた。
伝説の猫とも言われる俺たちの街のボスである美姫。その美姫と前に付き合っていたという親父。そして、美姫は大の男嫌いと聞く。ついでに親父は言い難いことだと、美姫との関係を黙っていた。
なにか嫌な予感しかしないのですが。もう選択肢はないでしょ。絶対に親父と美姫さん、何かあったはずだよ。おなかが痛くなってきた。帰りたくなってきたあ。
と、悩みながらも、目的地に着いてしまう。親父はいつの間にか姿を消していた。
くそう、ここで言い逃げかよ。といっても、姿が見えても説明に困るのだけど。
「ピーヨピッピッヨピー」
催促を促すようにピヨが背中から話しかけてくる。
言われなくてもわかっているのだ。ここで悩んでいても仕方ない。こうしている間にも、カギがクロに喧嘩をうられて大怪我するかもしれないのだ。
「美姫さま。隣町のハナさんから受けた相談を伝えにきました。中にいたら話をお聞きください。お願いします!」
ハナちゃんに言われた通り相談を受けてきたと叫ぶ。これなら、男嫌いの女帝でも、姿を見せてくれるはずだ。
しばらく静かに待っていると、窓越しのカーテンが揺れた。そして、カーテンが開いて顔が出る。更にカーテンが開かれると、その体躯がはっきりと確認できた。長毛で奇麗な黄金色。そして大きい。これは噂通りだ。伝説の猫、美姫はメインクーンのゴールデン種だった。
その美姫は、俺を一瞥すると器用に鍵を開けてから窓を開ける。
そして、周囲の様子を窺いながら、外に出てきた。普通は臆病な者が警戒態勢をとるものだ。しかし、この美姫には違う印象を受けた。それはまるで、高い身分の者が自然に放つ威厳。
大きな体にものをいわせる腕力と子分を率いての数で圧倒させるクロとは違う。自然と放たれる圧迫感。これが三帝王のひとりかと唸ってしまった。
「話は聞いているよ。悪い男に言い寄られているってね。あんたがハナの相談を受けたということは、その悪い男ではないということさね。さて、では、詳しい話を聞こうかね。まず、あんたの名前は?」
そうくると思った。相談するということは、当然、名前をいうのが礼儀なわけで。けれど、俺は自己紹介をし難い理由があったのである。つまり、名前だ。俺の名前は親父と同じ。そんな俺が自己紹介したらどうなるのか?
親父の前の女だぞ。俺は何故、二人が別れたのか経緯を知らない。しかも相手は威厳ある女帝。一言間違えたら猫パンチをくらって、噂通りにお星さまになる可能性が高い。しかし、嘘をついてバレた時も怖い。
「僕の名前はシマです」
追い詰められた時というのは凄い。いつも以上に機転が利くようになるのだから。俺は咄嗟に、佐藤家の婆さんに呼ばれているシマという名前を借りて自己紹介をしていた。
「シマかい……見たままの名前だね。で、あんたとハナの関係は?」
「ハナさんのお友達であるカギくんの親友が僕です。その親友が悪い男に喧嘩をうられそうで。美姫さまに助けてほしいのです」
「そのカギというオスはハナのことが好きなんだろう。好きな女は自分の力で守るというのが男というものさね。そうでないと、愛を勝ち取ろうなんて十年はやいよ」
美姫は俺の話を聞くと、興味をなくしたように家に入ろうとする。せっかく来たのにここで終わりか。しかも親友の悪口まで言われて。俺は感情を抑えることができなかった。
「俺の親友のカギは、相手を傷つけるのが嫌いなんだ。それがどんなに汚い相手でも! あいつは相手を傷つけるより自分が引くことを選ぶ奴なんだ。そんな奴のどこが男じゃないんだ。あいつは力を示して相手を壊すよりも優しさを優先する男なんだ!」
そこで美姫の足がとまった。俺は思わず息を呑んでしまう。感情に任せて言いすぎたか。と、思ったら、美姫は笑いはじめた。
「ハハハッ、あんた、面白い男だね。この私に言い放つ男と会うのは五年ぶりだよ。すまないね。今のは、あんたを試したのさ。さあ、行こうか。その悪い男を懲らしめに」
美姫は俺だけでなく、ピヨにも視線を動かすと、微かに笑いながら歩きはじめる。俺は慌てて、道案内するために前に出た。
「シマとやら、私に遠慮しないで思いっきり駆けてもいいんだよ」
「では遠慮なく。美姫さんの足を信じて思いっきり」
後ろ足に力を入れ、思いっきり地を蹴る。メインクーンが俺についてこられるのかと思ったら、後ろにつくどころか、俺に並走していた。
「ヒヨコを背に乗せているなんて、面白いね。どういう経緯で一緒にいるのかわからないけど、私はあんたが気に入ったよ」
可愛いメスに気に入ったと言われるのは嬉しいが、相手が三帝王のひとりとも言われる女帝ともなると、複雑な気持ちである。
更にスピードをあげても、美姫は遅れることがない。生まれからの威厳だけではない。体の大きさではない。確かに美姫には、三帝王のひとりといわれる力がある。
そして、全力疾走して五分。俺と美姫は、カギとクロ、ハナの姿を確認していた。



