付き合いはじめたとき、よくヒソヒソとしながら見てきた人たち。

絢斗くんが『俺の彼女勝手に見るなって、周りに言っとくから』と、言ってくれたあたりから見られなくなったけれど……。

廊下の端を歩いていると、向こうがわたしに気づいて「あっ」という声をだした。

笑っている気がする。

「ねえねえ、絢斗と別れたんでしょ?」

一人がからかうように声をかけてきた。

嫌な笑みを浮かべる相手に不快な気分になっているわたしは、首を縦に振るだけで答えた。

「早かったよな。一ヶ月もった?」

「つか、絢斗はマジだったの?」

「知らねー、どうでもいー」

「たった一ヶ月程度、付き合ったってカウントに入んの?」

男子たちは笑った。

わたしは唇をむすんでうつむく。

たとえ一ヶ月でも、わたしにとって特別な時間だった。

一ヶ月でも“付き合っていた”と思える時間だった。

なんでこの人たちに笑われなきゃいけないんだろう。

わたしは拳を握りしめた。

じわり、苦しい想いが込み上げてくる。


「お前ら何やってんの?」

すると後ろから低い声がして、男子たちが固まった。

そしてわたしから離れ、すたすたと去っていく。

わたしは顔を上げて振り返った。

――そこには、絢斗くんが立っていた。