絢斗くんは佐藤さんに「なに?」と顔を向けた。

「今日購買行くでしょ? ジュース買ってきてよ」

「俺をパシんな」

「いいじゃーん、ついでだよ!」

「俺に頼むとお前の嫌いな牛乳選ぶぞ」

「牛乳は本当にムリ! 違うのにして!」

「やだ。違うのがいいなら自分で行け」

「えーっ!」

テンポの良い会話をしている二人を見て、もやもやした気持ちが沸き上がってきた。

なにこれ、なんだろう……。

絢斗くんに声をかけようとしていたのに、わたしは動けなくなってしまった。

顔を動かした絢斗くんが、わたしに気づく。

「菜々花」

彼はわたしの名前を呼び、近くにいる佐藤さんを置いてこちらに歩き出す。

佐藤さんはわたしを見ていた。

わたしはすぐに俯いた。

いま絢斗くんの視界に入っているのはわたしだと、心の中で呟いておいた。

「おい?」

反応のないわたしを、絢斗くんはどうしたのかと顔を見ようとしてくる。

だからわたしはそっと顔を上げて、じっと絢斗くんの顔を見つめた。