菜々花は顔をこわばらせた。

「あ……悪い」

俺は立ち止まってうつむく。

菜々花にこんな態度をとって、マジで最悪すぎるだろ。

せっかく菜々花がラーメン食いに来てくれて、こうして一緒にいられる時間ができたのに。

自分の余裕の無さに呆れて顔を上げられない。

「……絢斗くん、どうして不機嫌なの? わたし何かした? 今日、食べに来ないほうがよかった?」

「違う……、本当、俺が悪い」

顔を下に向けたままそう言った俺の視界には、体の横で強く握る菜々花の拳。

「何が悪いの? それって、本当にわたしに関係ないの? はっきり言ってほしいよ……理由がわからないのが一番嫌だ……不安になるよ」

菜々花の声は震えている。

俺ははっとした。

ゆっくりと顔を上げると、泣きそうな顔で、だけどまっすぐ俺を見ている菜々花がいた。

菜々花はいつもまっすぐで。

俺に好きだと言ってくれたときも、俺をしっかり見ていて。

そんな菜々花の瞳に、俺はあの日一瞬で惹かれたんだ。