呼出し音が何度か鳴った
やがてハルの声が
耳に流れこんできた
「どうしたの、愛果
今日は蘭さんと飲んで
たんじゃないの」
いつもの穏やかで優しい声
大好きな声だ
「声聞きたくなって
忙しいならまた電話するよ」
ハルの後ろから
話し声がした
「今スタジオでリハーサルしてた
ちょうど休憩になったから
大丈夫だよ」
そう言われてちょっと安心した
安心したら自分の姿に
気がつく
部屋の電気もつけてない
窓から夜の灯りが
洩れていた
赤色の光が点滅している
アパートの前にある
店の照明だ
嬉しくて甘えてしまう
ハルが蘭さん元気だった?
と、聞いてくれた
元気だったよと答える
「今日は圭介も来たんだ
蘭プロポーズされたんだって」
受話器の向こうで
ハルがフウーなんて
冷やかした
「蘭は一度結婚してるから
臆病になってるんだ」
そっかと相づちをくれた
「仕方ないよね」
そう言ってみる
「でもね、二人揃うと
すごく仲良くてさ
羨ましくなっちゃった」
そう笑ってみた
「俺が恋しくなっちゃった」
「うん」
そう言ってみる
心臓がドキドキする
声だけなのに
もう恋しくて仕方なかった
「俺もだよ」
私は窓の外の灯りを見つめた
受話器の向こうの
ハルの世界の音に
聞き耳をたてた
少しでもあなたを感じたかったのだ

