「結婚って、貴方の両親とかにも挨拶しないといけないでしょ?」

私がいい加減にしてきた素性とか調べられたらきっと驚かれてしまう。
いや、破断?  色々言い訳を述べたけれど、いまいち結婚に幸せなイメージが持てないことは、自分が一番よく分かっている。

恋愛とか、結婚とか、誰かに執着する恋心。

ソレが私には欠落している。

必死で擬態して、普通の女の子を装っても、気持ちまでは擬態出来ない。


「ああ、俺の家も複雑だから、何処に挨拶いけばいいか分からないな。どっちも別々にもう違う家族持ってしまっているし」

「あ……、そうなんだ」


直臣さんも複雑な家の人だったのか。
彼が私の過去に興味が無いのは、自分の過去に興味が無いから?

「社長に挨拶してくれたらいいよ。あの人との付き合いの方が、家族よりも確かだから」

「――っ」

カツンとグラスが触れ合って小さな音を立てる。
彼が私にグラスを渡そうとして、自分のグラスに少し当ててしまった。


共鳴するように、震えるグラス。

彼が私を選んだ理由に、その偶然の小さな共鳴に反応してくれたのもあるのかもしれないね。