それでも、社長の為ならば彼は急いでどこへでも行く。
だから、私が行きたくないと言っていた日田にも、行かせた。あの時きっと彼の中では私の気持ちよりも、社長の事が過ったんだと思う。
直臣さんが優先しているのは、私でも仕事でもない。
「ジャケット、どこにかけたら良い?」
ハンガーを探す私に、彼は手招きした。彼の手招きのまま、近づいて、ソファに座る彼の足に、太ももを乗せて様子を伺う。
「疲れてる君にお願いするのは、――やっぱ駄目かな?」
――ああ。
彼の向こうの窓が開いている。
急いでいた彼は、窓を開けたまま出張へ行ったのかな。
カーテンが揺れるその向こうは、現実から切り取られた夜が見えた。
ずっと空いていた窓から、蝶が入って来たとしても不思議はない夜だった。
彼が私を抱こうとした時、私の体はそれを受け入れられなかった。
だからそれ以降、彼はそれを無理強いしない。代わりに、可愛くねだるその行為は、今日も私を傷つける。



