昨日、私は諦めて寝たような、――蝶矢が寝るか寝ないか見ていたので、じっくりは眠っていなかったかな。
でも、電車の中ではうたた寝ぐらいはしたはずなのに。
「昨日、遅くまで大変だったって、言ってたもんね、彼」
『彼』という言葉が重く低く感じた。
直臣さんの目を見上げたら、その言葉の裏に特に意味はなさそうだった。
私がただ一人、後ろめたくて動揺してしまっただけ。その言葉に。
いつ見ても、彼しかいない空間の部屋は、まるでモデルルームの様に綺麗だった。
テレビの横の棚に、うちのウエディングドレスのミニチュア版が、小さなマネキンに着られて飾られている。
毎回、新作を作る度に彼が注文して作って貰っているらしい。
壁には、工房『のロゴマークが額に飾られている。
でも今日は、いつもの綺麗な部屋に違和感があった。
ソファに、スーツのジャケットが放置されていた。
「急な出張だったから出る時、バタバタしちゃったんだった」



