ムードをぶち壊された蝶矢は、明らかに不機嫌になりながら私を引きずるように歩かせて乱暴に持ちあげた携帯の画面を、そのまま私へ見せる。


「この人には、なんて名前を使ってるの?」
「流石に偽名は使ってない。これだけだよ」


液晶を見ると、 伊月店長と出ている。
蝶矢は彼氏でもない癖に、やましくないなら出ろと目で睨んで訴えてくる。

それを鬱陶しく思いながら、電話に出た。

「もしもし、店長?」

『あら、やだ、アンタ、いまどこよー。まだ家に帰らないの?』

「……」

店長の低い声で、テンションの高い喋り方に蝶矢が固まったのが分かった。
そのまま萎えてくれたら万々歳なんだけど。