「だって、親から逃げてたし。あの親と一緒の名字なんて脱ぎ去ってしまいたくて」
「――だから好きでもない男と婚約?」
表情も見えない背中合わせのせいなのか、蝶矢の言葉は冷たくて怖い。
なんでそんなに私を避難するような言葉を突き刺してくるのだろう。
「好きに決まってる。彼は私にさえ優しくて」
「優しかったら誰でもいいってこと?」
「――っさっきから何よ。私の逃げ出した人生を、アンタになんでそんな偉そうに説教されなきゃいけないのよ」
蝶矢は、私たち家族から解放されてまっとうな人生を送れたのならば、私なんかもう構わなければいいのに。
高見の見物?
私が不幸なのを見て、過去の自分を慰めてるの?
「貴方には俺じゃないと駄目なんじゃyないかなって」
「……あんた、私が好きなの?」
思わず、冗談にしては笑えない乾いた言葉を吐いた。



