「いえ。でも貴方には貴方を助けてくれた人を裏切ってまでまた逃げ出せるような、そんな人になって欲しくないので」
事務的で感情もなく淡々と言うと、黙りこんでしまった。
何を言いたかったのか私には分からない。
それどころか、信用したくないと蝶矢の言葉にぴりぴり警戒してしまう。
確かに、ふらふら立ち寄った私に住むところや仕事を紹介してくれた店長を裏切る様な最低な行為かもしれない。
「でも、自分を殺して生きていくよりはまし。しょうがないじゃない」
「殺して生きて来た反動ですね。殺していた感情は生き返ったんですか?」
それって、殺せてなかったんでは、とクスクス笑う。
他人事のように笑う。
「あんたってそんなに喋る性格だった?」
「別に。貴方と居る時は喋る機会がなかったから」
触れるか触れないか、ギリギリで背を向ける私たち。
枕元にさえモノが全くない、隙の無さ過ぎるベットは見ても面白みがなくて呆れてしまった。
「貴方は俺が守ってあげてたんです。俺が居なくなったから、あの女に苛められてしまっただけで」



