「何をしてるんですか? 座ればいいのに」
「……」
息ができないようなこの部屋に、もう一秒たりとも居たくなかった。
今すぐ出ていきたい。飛び出したい。
私が蝶の様に身軽だったらば、10階のこの窓から静かに舞い落ちることもできたのに。
今はそれさえも出来ずに、ただ自分を殺して――従うだけ?
「ミスはすいません。後日、雛菊さんにも謝罪します。私やはり貴方とお仕事できません。担当を変えさせて頂きます」
私はお願いします、と頭を下げた。
無理だ。昔とは今の状況は違う。もう、静かにひっそり息を潜ませ、誰にも見られることなくただただ真っ暗な夜に、身体を溶け込ませて生きていきたいだけ。
蝶矢に会ったところで、辛くて胸が痛むだけ。
テーブルに並んだたこ焼きや焼きそば、林檎飴に焼き鳥、綿あめ。
全てがなんだか美味しそうに見えない。
お好み焼きの上を光るマヨネーズさえ、嫌悪してしまった。
「『lachryphagy』って意味、わかりますか?」



