右肩の蝶、飛んだ。


会わなければ。

もう二度と会わなければ、私だけは平穏で居られた。

直臣さんが何を考えてるのか分からず不安になっても、その不安よりも名字を変えられる喜びに比べたらその不安は不安でもなくて。
私は何でも我慢できると思えた。
だから、私は蝶矢に再会しなけらば少し狂ってても擬態して生きて行けたのに。

なんで、私なの?
なんで今さらなの?

「蝶」

蝶矢のマンションへの帰路で、蝶矢はぽとりと言った。

「父が、蝶の標本を飾るのが好きだった。覚えてますか?」
「……書斎が蝶の標本だらけで怖くて近寄れなかったのは覚えてる」


私たちにはほとんど無関心だったっけ。
そんな父は、狂ったように蝶の標本を眺めるのが好きだった。
私に胡蝶、彼に蝶矢と名前を付けるぐらい、蝶に魅入られていた。