「……そうですか」
蝶矢は笑顔を崩さないまま、私に一歩近づいた。
もう一歩、また一歩。ハサミで簡単に切り込みを入れられる範囲まで、来た。
「何に怯えているのか知りませんが、今は俺が貴方と契約しているオーナーです。別に俺も女将もドレスなんて何処でも良いんです」
「なっ」
そんな訳ない。純白のドレスもカラードレスも、どのブランドが入っているか、どれだけ種類があるかって、花嫁には大事なはず。
「俺は美崎さんだから契約した。でも貴方が書類のミスの謝罪もそこそこに、接待も断ると言うのならば――」
「すいません。行きます。案内お願いします」
これ以上、蝶矢の言葉を聞きたくなかったし、耳を塞ぎたくなるような蝶矢の話し方に吐き気がした。
脅すならもっとはっきり言えばいい。
自分の言葉一つで、私たちとの契約を白紙に戻せるんだと、はっきり言えば良いのに。
「30分で準備と引き継ぎをしますので、待っててください」
ゆったりと座れるソファが置かれたロビーも、今日はほとんど座られていたけれど、蝶矢は申し訳なさそうにそちらを見てから座っていて欲しいと目配せされた。



