右肩の蝶、飛んだ。


「わ、私のこと――」

恨んでいるの?
その言葉は声にならず、唇を震えさせるだけで終わる。

誰も居ない。
今、私を助けてくれる人はいない。

昔のあの時の、何も出来なかった子どの時のように。

「美崎さんに何故? 貴方は俺に食事を分けてくれたじゃないか。怒られている俺を庇ってくれた。洗濯もしてくれた。何故、俺が貴方を怨むんですか」

クスクスと蝶矢は完璧に笑う。
大人の男の様に、完璧かつスマートに昔のことなど今の成功した自分には取るに足らないものだと笑っている。

「貴方に感謝しても――恨むなんてそんな事、あるはずがない」

目が笑っていない。
全然、満たされて満足した顔ではない。
自分をよく見せている。
擬態させて、蝶矢も生き抜いているんだ。


「30分、待っててくれないかな。挨拶周りのついでに露店でも一緒に回りませんか」
「私は、書類のミスについて説明をしたかっただけです。大丈夫なら、仕事がありますので帰ります」