放生会って、ただ神社の通りに露店が並ぶだけだと思っていた。
子供時代のそんな記憶しかない。でも、そんなに忙しいならなんで女将さんは私を呼びだしたんだろう。
「では、逆に今日は私、お邪魔だったのに押し掛けてしまったのですね。すいません」
「違います」
蝶矢はあっさりと否定すると、私に微笑みかけた。
「俺が貴方を呼びました。勿論、ビジネスです」
途端に蝶矢の笑顔が凍りついた。
怖い。蝶矢の顔が、知的で柔らかいのに……冷たくて怖い。
「俺が女将に上手く言っておいたんですから感謝して欲しいぐらいなのに、そんなにあからさまに怯えて」
ふう、と不満げに蝶矢は首を振る。
どういうこと?
蝶矢のこの行動には、私へのどんな意味があるの?
「書類のミスも嘘なの?」
混乱した私は、その言葉をぽろりと落とした。
眼鏡の奥の、蝶矢の目が輝いている。
何年ぶり? 何年ぶりのその瞳を見てしまったんだろう。
「ミスは本当。ただ」
それに付けこんだのは、俺。
蝶矢は笑顔を歪めてそう答えた。



