私を普通の、そこらへんを歩いている普通の女の子に擬態させてくれる化粧は、私の唯一の武器だった。
義母からこの身一つで逃げだした私の唯一の武器だ。

「あ、指輪も」

ベルベットの箱の中に、紫色に輝くアメジストの指輪。彼がくれたその指輪を嵌めると、私は本当にただの女の子になった気がした。

そのまま、淡いピンク色のスーツに身を包むと、私はアパートを出た。



アトリエ『Butterfly』に就職してもう六年が経とうとしている。身、一つで飛び出した私を、就職させてくれたのは、たまたま酔っぱらって辿り着いたゲイバーの店長だ。
彼が、元女優が小さなアトリエでウエディングドレスを作るので事務を募集していると紹介してくれた。
その女優とは一度もあったことがないけれど、お陰でその工房の社長である彼と恋に落ちた。