右肩の蝶、飛んだ。


外国の、水が貴重な地域に住む蝶は、亀や鰐の涙を飲むらしい。
だったら、私はきっと直臣さんの涙で生きていける。
凛子さんへの叶わない思いに涙する直臣さんの涙で、自分を形成している。偽りでも、歪な関係でも、私は、直臣さんが必要。

「ごめん、遅くなった。社長がべらべらに酔ってて全然話を理解してくれなくてさ。もう、困っちゃうたよ」
「あはは。せっかくの良い知らせなのに、ですね」


「……伊月(いつき)、胡蝶に強いお酒飲ませたな」
じろっと睨みつけると、店長は涼しい顔で直臣さんに生ビールを注いだ。
「彼女が酔いたいらしくて」
「俺の前以外で飲ませないでよ。胡蝶はお酒強くないんだから」
「ぷぷ」


私が笑いだしたので、更に強く睨んだ後、直臣さんは小さく溜息を吐く。
店長と私の悪乗りには、いつも諦めて流してくれる辺り、大人で素敵だ。


「来週から、急な出張が入りそうなんだけど、心配だなー。胡蝶も一緒に来てもらおうかな」
「出張?」