蝶がひらひらと飛んでいた。その蝶は綺麗な模様を黒い羽根の中に浮かばせて、人々を魅了させていた。
 そっと私は目を閉じて、その蝶の気持ちになろうとした。蝶はどこを飛びたいのか、何をしているのか、なんでそんなに美しく生まれたのか。

『お姉ちゃん。動かないでね』

私の肩に留った蝶を、後ろから義弟が両手で掬うように閉じ込めた。

『両手で隠したら、綺麗な羽が見えないよ』

小さく開けた隙間の中を覗いていた義弟に不満を言う。
すると、ヤンチャそうな顔がにたりと笑った。

そこで、いつも目が覚める。
携帯がアラームの五回目のスヌーズで大きく揺れているのも、いつものパターンだ。
緊張やプレッシャーが溜まると私は昔の夢を見る。
「――化粧しなきゃ」
もはやほぼ脅迫されているかのように私は顔を洗うと化粧水をつけ、乳液をつけ、鏡の前で座る。


ルージュにマスカラ、
チークにアイライン。

私を普通の女に擬態させてくれる魔法のアイテム。