右肩の蝶、飛んだ。



ぽとりと店長が言うけれど、私は顔を覆い隠した。

覆い隠した指の隙間が、格子のように私の視界を遮り、あの時間を閉じ込めてしまう。

ヒラヒラと舞い降りる蝶の様に、私の目の前に現れる。


「私、義母が居ない所で、弟にご飯あげたり窓の鍵を開けてあげたり、洋服も一緒に洗って隅っこに隠して干したり、ばれないように助けていた。でも、ばれて怒られるのも、壊れて被害が私に回ってくるのも、どちらも怖くて私は私の為に弟を助けていた。彼の為じゃなかった」


私は私の為に、蝶矢を助けていた。
生贄が、蜘蛛の糸に絡みついてずっと元気に動いてくれれば私に被害は来ない。

私は、私の平穏の為に蝶矢の存在を利用していて、それが後ろめたいくせに必死で良い子のフリをしていた。
蝶矢はそれを分かっていた。分かっていて、私に助けを乞う事は一回も無かった。私が勝手にしていたことだ。


「貴方の複雑な子供時代には同情するけど、必死で生きていた当時の自分を卑下しちゃ駄目よ。直臣には私もちゃんとフォローしてあげるけどでも」

貴方も変わらなきゃいけないの。いつまでも虐げられてきた子供のままじゃいられないのよ。
静かに、優しくなだめられるように店長は諭す。