右肩の蝶、飛んだ。



直臣さんと高校からの腐れ縁だと豪語する店長は、あの初めてこの店に来た日、私を助けてくれたスーパー救世主だ。

「良かったじゃない。これで二人で始めたアトリエが危機を脱したってことよね」
「うふふふ。二人のアトリエなんて」

「……直臣、なんでこの子、ポテト食べただけなのに酔ってるのよ」

「ああ。やっぱり嬉しいとお酒飲んじゃうからね、電車の中で二人で乾杯したんだよ、――あっ」
バーカウンターに置いていた携帯が振動し出して、直臣さんは私に片手で詫びると外に出た。

詫びた左手には、私と同じ指輪が嵌められている。


「で、いい加減、直臣と寝る気になったの?」
「ぶっ」
「汚いわね」
甘いカクテルを勢いよく吐き出すと、店長は嘆息しながら台拭きで拭いてくれた。
私もおしぼりで唇を拭きつつ、店長を睨みつける。

「あれから全く手を出して来ないんです」
「手を出して来ないじゃなくて、貴方が誘う努力しなさいよ。一回失敗したら男だってなかなか手を出す勇気はないわよ」
「さ、誘うなんてそんな」
私が直臣さんを誘うなんて、絶対変だ。ギャグシーンにしか見えない。