思わず盛大に舌打ちしてしまいそうになった。

忌々しいからではない。

どっちに転ぶか分からなくなったからだ。

「久しぶりですね。義姉さん」

駄目だ。覚えてる。

――恨んでる?

私に復讐したいのなら、私はこの人の目の前から消えなくてはいけない。

会社の存続は、全てこの男にかかっている。



義母に虐げられていた憐れな義弟を、私は生贄にして生き延びた。
その義弟だった人物が――取引先の社長。
彼は覚えているだろうか。

蝶の羽を捥ぐのを楽しそうにしていたあの日の自分を。

貴方の背中にさえ触れたくない。

背中合わせ、触れたくない背中。
それぞれ違った方向で生きてきた。

交わらないのは視線だけ?