思えば、馬鹿みたいに蝶矢を避けて遠回りした。

右肩の蝶を、見ないふりして、逃げて、自分は異常だからと擬態したふりをして。
「うん。蝶矢の事、これから知りたいって思う」

普通の女の子だったってこと。

石垣さんを抱いた蝶矢の身体を――拒絶しちゃうぐらい嫉妬してしまう程度に。
私の中に普通の感情が流れている。


「ふーーっ。よし」
「何よ、よしって」

「やっと胡蝶に近づけたってこと。これからガンガン行くから」

そう笑う蝶矢の顔は、最初から擬態なんてしていなかったような、爽やかな笑顔。
私が勝手に斜めから見ていた顔は嘘なんだろう。


「来週、そっち行くから、飲もうか」
「素直になってきたじゃん、胡蝶」
「まあ、ね。身体が軽くなった感じ」

ケタケタと笑えば、それが私本来の笑い方だったんだろうなって、すっきりした。
やっと、全部脱ぎ棄てて――隣を一緒に歩けるような。
清々しい。

閉じ込められて夜しか飛べなかった蝶が、自分から外へ飛び出した。
朝日の下、舞う蝶もきっと綺麗だろう。