結局黒い下着は、伊月さんが私に着せてくれた。

恐怖と怒りしか沸かないそれを、私は諦めたように見る。
不思議な――初体験を終えると、少しだけ蝶矢の気持ちが分かった。

小倉駅に着き、痛い腰を押さえてキャリーケースを転がしていたら、携帯に電話が入った。

『美崎さん』

「あはは。そうだった。もう美崎は辞めないといけないんだった。あ、はいはい。どうしたの?」

『今、小倉駅に着いてるんだけど』


その声の主が、息を飲む。緊張して震えた声だ。

「……私も今、小倉駅」

振り返って、改札口を見れば携帯を耳に当てて、口元を手で隠した蝶矢が立っていた。


「どうしたの?」
「やっぱあのまま終わるのは、嫌だなって思ったから」

「私も」