右肩の蝶、飛んだ。



私に復讐したいのなら、私はこの人の目の前から消えなくてはいけない。

会社の存続は、全てこの男にかかっている。

義母に虐げられていた憐れな義弟を、私は生贄にして生き延びた。
その義弟だった人物が――取引先の社長。
彼は覚えているだろうか。

蝶の羽を捥ぐのを楽しそうにしていたあの日の自分を覚えているだろうか。



「その顔は、――信じられないって混乱してるね」


優しく目元だけで笑う。
でも、それは嘘だ。

擬態。

この男も、擬態してるんだ。


「え? 胡蝶の弟!?」

今は、直臣さんの驚く声さえ、私の耳には入って来ない。
優しく見つめてくるこの男の目が笑っていなかったから。


蝶は、身を守るために花や枯れ葉のように身を擬態させる。それは飛び方もそうだふわふわだったり、力強く羽ばたいたり。

私も彼も、他人が見たら気づかないはず。

だけど、同じ穴の狢だからだろうか。
彼が上等な大人の男に擬態してるのが分かった。




「子供の頃、6年だけ弟だった。今、目の前に居てどう反応していいのか分からないの」

震える声でそう言ったら、直臣さんも私と蝶矢を交互に見て、どうしようか戸惑っている。

「積もる話は、仕事の後で、ね」