「しゃ、社長もう居るんだ」

「マスコミが五月蝿いから、此処に身を隠してるんだ。社長、連れて来たよ」

靴を見ただけで怖じ気づいた私を置いて、直臣さんはすぐに靴を脱ぎ部屋へ入って行く。

出迎えは無いらしく、中へ入ると――珈琲の良い香りがした。

「ごめんなさいね。珈琲入れてたら、玄関まで行けなかったの」

紫の、足首まであるロングワンピースにお団子頭の女優『朝日 凛子』。

真っ赤な唇でにっこり笑うと、大きな目には長い付け睫毛。

迫力とういか、生まれながらに持った女優オーラ?
圧倒されて固まってしまった。

「あ、や、すいません、社長に珈琲を煎れて貰うなんてっ」
「いいのよう。直臣の婚約者なんだから、私とは家族の様なものだし。ソファに座ってて。直臣、お皿にケーキお願い」
「はいはい」
「何よ、その返事はっ」

屈託なく社長は笑うと、肘で直臣さんを突いた。