「親が昔くれたマンションなんだ。だから、――そこに胡蝶と二人で住むってのもイイね。福岡の店を畳んだら、だけど」

「店長と離れて寂しくないの?」

「……そっか。それは考えなきゃね」

直臣さんはいつも通り、穏やかな笑顔で冗談かそうじゃないか分からない言葉を吐く。
それが、いつもなら普通だったのに、今日はとても違和感を感じてしまった。




直臣さんがご両親から貰ったというマンションは、びっくりするぐらい都会の一等地にある大きなホテル並のマンション。
一階のロビーに管理人が何人も居て、配達の手続きやらクリーニングのお届けから何から何まで頼めばサービスの一環としてこなしていた。

一階から二階のエレベーターまではエスカレーターで登って行くらしい。
途中、大きなジムも見えた。

私、此処に住み自信は全く無い。自分が此処に住んでいる想像ができない。


そこの八階の角部屋が、直臣さんの部屋らしく。
鍵を回さずに開けると――すぐ飛び込んで来たのは紫色のハイヒールだった。
高級そうな、ハイヒールが存在感一杯に綺麗に置かれている。